「伝説は本当に実在したのか?」
19世紀、多くの学者が笑い飛ばしていたギリシャ神話を、本気で信じた一人の男がいました。
その男の名はハインリヒ・シュリーマン。
そして彼が発見した黄金の財宝は、世界中を熱狂させることになります。
しかし、その財宝には今でも多くの謎と論争が残されているのです。

少年時代に抱いた夢
1830年代、ドイツ北部。
幼いシュリーマンは父親から、古代ギリシャの英雄たちが戦った『イリアス』の話を聞きました。
そこには、約10年間にわたって戦われたトロイ戦争が描かれていました。
しかし当時の学者たちは、
「トロイなんて伝説にすぎない」
と考えていました。
それでもシュリーマンだけは違いました。
彼は
「必ずトロイを見つける」
と心に誓ったのです。
巨万の富を築く
夢を実現するには資金が必要でした。
シュリーマンは商人として世界を飛び回り、ロシアやアメリカなどで貿易事業を成功させます。
1860年代には巨万の富を築き、40代で実業界を引退。
人生をかけた夢だった考古学に挑戦することになります。
発掘場所は現在のトルコ
1868年、シュリーマンは現在のトルコ北西部・ヒッサルリクの丘を訪れます。
この場所は、イギリス人外交官で考古学愛好家のフランク・カルヴァートが「こここそトロイではないか」と考えていた場所でした。
シュリーマンはその説に注目し、本格的な発掘を決意します。
そして1871年、ヒッサルリクで大規模な発掘が始まりました。
1873年、黄金の財宝を発見!
1873年5月31日。
ついに運命の日が訪れます。
シュリーマンは城壁近くから、
- 黄金の王冠
- 黄金の耳飾り
- ネックレス
- 金杯
- 銀製品
- 青銅製武器
など約8,000点にも及ぶ宝物を発見しました。
彼は大興奮し、
「これはトロイ王プリアモスの財宝だ!」
と世界へ発表します。
後にこの宝は
「プリアモスの財宝(Priam’s Treasure)」
と呼ばれるようになりました。
世界中の新聞が大々的に報じ、一躍シュリーマンは英雄となります。
しかし大問題が発覚
ところが、その後の研究で驚くべき事実が判明します。
シュリーマンが発見した財宝は、
トロイ戦争の時代より約1,000年も古い
可能性が高いことが分かったのです。
現在では、
トロイ戦争があったとすれば紀元前1200年頃。
一方、財宝は紀元前2500〜2300年頃の
「トロイII」
という都市のものと考えられています。
つまり、
プリアモス王の財宝ではなかった可能性が非常に高いのです。
発掘方法も問題視された
さらにシュリーマンは、
「早く宝を見つけたい」
という思いから、
上の地層を大胆に掘り崩してしまいました。
その結果、
後の時代の貴重な遺跡まで破壊してしまった可能性があります。
現在の考古学では、
地層を一枚ずつ慎重に調査するのが基本です。
シュリーマンの発掘方法は、
現在では非常に乱暴だったと評価されています。
財宝はどこへ消えた?
発見された財宝は当初、
ギリシャへ持ち出された後、
ドイツ・ベルリン博物館で展示されました。
しかし1945年、
第二次世界大戦終結直前、
財宝は姿を消します。
長年、
「戦争で失われた」
と考えられていました。
ところが1993年、
ロシア政府が
「実はソ連軍が戦利品として持ち帰っていた」
ことを公表。
現在、その多くはロシア・モスクワのプーシキン美術館に収蔵されています。
一方でドイツは返還を求め続けており、
財宝の帰属問題は今なお解決していません。
シュリーマンは成功者か、それとも問題児か
現代の評価は決して単純ではありません。
評価される点
- 神話を現実の歴史研究へ導いた。
- トロイ遺跡を世界に知らしめた。
- 考古学への関心を世界中に広めた。
批判される点
- 発掘方法が非常に乱暴だった。
- 財宝の年代を誤って判断した。
- 発見時の状況について誇張した可能性がある。
現在のトロイ遺跡
ヒッサルリク遺跡では、
現在までに9層以上の都市が重なって存在していたことが確認されています。
考古学者たちは、
トロイ戦争の舞台として有力なのは
「トロイVI」または「トロイVIIa」
ではないかと考えています。
そして1998年、
この遺跡はユネスコ世界遺産に登録されました。
まとめ
シュリーマンが発見した財宝は、厳密には「プリアモス王の財宝」ではなかった可能性が高いとされています。
しかし、それでも彼の功績は色あせません。
「神話は歴史かもしれない」という信念を貫き、世界中の人々の想像力をかき立てたことは間違いありません。
シュリーマンの物語は、黄金を見つけた冒険譚であると同時に、「夢を信じ続けた一人の男」と、「考古学が科学として発展していく過程」を象徴する歴史でもあるのです。
「伝説を信じた男が、本当に伝説の都市を掘り当てた。」
このロマンこそが、150年以上たった今もなお、多くの人々を魅了し続けている理由なのです。


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