シーボルトの遺した探偵

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明治ミステリー

第四話

氷のメスの密室

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第一章 密室の死

明治九年(1876年)。

東京・築地。

外国人医師エドワード・ブラウン博士の診療室。

助手が扉を叩く。

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「先生、お時間です。」

返事はない。

鍵は内側から掛かっている。

窓も閉ざされていた。

異変を感じた助手たちは扉を破る。

そこには、

机にもたれかかるブラウン博士の遺体。

胸には鋭い刺し傷。

しかし……

凶器はどこにもない。

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第二章 医学探偵

福沢諭吉は現場へ駆け付ける。

「完全な密室です。」

「しかも凶器がない。」

楠本イネは遺体を見つめる。

胸の傷。

服。

床。

机。

何もかも静かに観察する。

やがて傷口へ指先を添える。

「……。」

「この傷。」

「普通の短刀ではありません。」

医師たちは驚く。

「なぜ分かるのです。」

イネ。

「父から教わった西洋外科では。」

「この形は、メスに近い切創です。」

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第三章 消えた凶器

部屋を調べても、

外科用メスは一本も減っていない。

誰も首をかしげる。

イネは窓辺へ歩く。

窓枠に残る小さな水滴。

さらに机の上には、

濡れた布。

福沢が尋ねる。

「先生?」

イネは静かに答える。

「凶器は……。」

「もうありません。」

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第四章 氷のメス

イネは言う。

「外国人居留地では、氷が手に入ります。」

「もし氷で外科用メスの形を作れば……。」

「刺したあと、凶器は溶けて消えます。」

部屋中が静まり返る。

医師は笑う。

「そんな馬鹿な。」

イネは首を振る。

「だから水滴が残っています。」

「そして傷口には、金属で切った時の微細な傷がありません。」

福沢は目を見開く。

「だから先生は……。」

「普通の刃物ではないと。」

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第五章 密室の謎

しかし、

犯人はどうやって密室を作ったのか。

イネは扉を見る。

内側の閂。

その下に、

小さな水たまり。

「ここです。」

犯人は退室するとき、

**氷で作った楔(くさび)**で閂を支えた。

時間が経ち、

氷が溶ける。

閂は自重で落ちる。

誰もいない部屋が、

内側から施錠された密室になったのだった。

福沢は感心する。

「密室を作ったのは……。」

「時間だったのですね。」

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第六章 医学は嘘を見抜く

犯人はブラウン博士の助手だった。

研究成果を横取りしようとしていた。

しかし最後まで否認する。

その時、

イネは助手の袖を見る。

袖口だけ濡れていた。

「あなたは氷を素手では持てません。」

「布で包んで運びましたね。」

助手は震える。

イネは静かに続ける。

「その布には、氷が溶けた水だけでなく、博士の血液も付着しています。」

助手は膝をついた。

「……私がやりました。」

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第七章 未来へ

事件は終わった。

夕暮れの築地。

福沢は歩きながら言う。

「教育は、人の心に知識を残します。」

イネは空を見上げる。

「医学は、身体に残された真実を読み解きます。」

福沢は微笑む。

「シーボルト先生が日本に残したものは、医学だけではありませんでしたね。」

イネは静かに頷く。

「真実を見極める眼も、父から受け継いだ遺産です。」

二人は夕日に染まる街を歩いていく。

その向こうでは、子どもたちの笑い声が響いていた。

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